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新規事業における経営者のタスクは意思決定をするだけではないonline article October,2013


こちらのコラムは、9年前にウェブメディアに寄稿したコラムになりますが、2022年時点においても同様のことが言えます。
市場/外部環境では、デジタル化やIT化を明確に分離させて「デジタル技術を活用し、ビジネスのプロセスや人々の生活を変革する」というDX(Digital Transformation / デジタルトランスフォーメーション)が加速しています。
しかし、中小企業においては、言葉や概念に負けずに、揺さぶられず、フルデジタルでなくても一部デジタルでも、充分お客様を満足させるモノ・サービスを提供できる内部環境を作り上げることができればトランスフォームが可能ですよね。 また「経営者の仕事は決めること」これは大企業の経営者が言うことであって、中小企業では経営者がリーダーシップ・マネジメント能力を発揮しないと満足がいく結果を得るのが難しいのが現実で、実感もしているはずです。
そして、「経営者と従業員での危機感や温度差がある(これって、当然なんですよね)」が常に見え隠れしている中、
『新規事業に取り組むこと』は経営者にとっては、終わることがない命題となるはずということで、再掲しお伝えしたいと思った次第です。 (2022.04.01 佐々木)

今年も例年通り企業活動の取り巻く環境は、市場の多様化、グローバル競争の激化、業界再編の渦、労働構造の加速的変化、コンプライアンス強化から環境対策、消費増税対応などあらゆる角度からさまざまな課題がダイレクトに直面している。どの課題も企業価値や永続経営を決定する刺激となり、中長期計画の策定においては、自社の事業ドメインとコアコンピタンスの強化やビジネス機会の創出のみならず、外部環境の分析と認識、トレンド予測は重要なファクターになっている。 そのような環境下、企業の経営計画や事業計画の中には「新規事業への挑戦」の要素が組み込まれていることでしょう。一方、景気影響の懸念や自社市場の成熟化、経営資源の弱点を理由として新規事業には着手せず、既存事業の健全化とベースロード事業の安定化を目指す成熟・衰退対策が、単年度のみならず中長期計画の中心を形成している企業も存在する。規模の差こそあれ問題意識、実行力、競争力の差が計画に投影されるものだと感じる。

そもそも新規事業の立ち上げは、外部環境や市場変化の中、どのような商品・サービスであっても、必ずいつかは停滞や減速が起こり、それに代わる事業が必要になるという自然背景のもと、事業継続における将来性への不安、キャッシュストックによる投資、自社が展開するマーケットの飽和状態に対する次なる一手、財務状況における補充・拡張の必要性、社内での人材育成を期待したモチベーション維持など、さまざまな理由で取り組むケースが多い。 いずれにしても、すべては未来を見据える起爆剤であるが、残念なことに新規事業に成功する可能性は実に低いと言わざるを得ないのが現実でしょう。既存事業であれば業務プロセスやオペレーション改善によって生産性向上やコスト削減が果たせたとしても、そこで培ったノウハウは、新規事業の創出には活用できず、既存事業を拡大・成長させることとは、全く違う発想とノウハウが必要になる。新規事業のようにゼロをイチにするには、いわゆるイノベーションが必要になるが、そのイノベーションというものは、起せと言われても簡単に起きるものではない。

実態として、経営者命令で立ち上げたが目的が不明瞭であったり、社内でアイデアを公募しても集まらなかったり、リーダ候補を募っても適任者や立候補者でいない状況であったり、そもそも企画稟議が通らない、他部門とのコンクリフトだけが散在して、立ち上げ推進者が抱いていた熱意が閉塞感へと変わってくることもよくあることだ。その反面、右肩あがりの楽観的な計画を決裁し、名ばかり新規事業になることで、引くに引けない状況を作り、チームを疲弊させる現場もある。新規事業は、市場に出る前に企業内部で消滅していることが多く、外部のみならず内部に多くの問題が存在していることも新規事業が困難と言われる原因の一つとなっている。

新規事業を進めていくとなると、自社の強みや弱みを認識することで提供できる商品やサービスを見直し、そこに新たな付加価値と市場(=顧客)を発見する取り組みになってくる。時代の流れやビジネス環境に即して経営資源を再整理し、目標設定、商品企画チームの発足、マーケティング・営業体制を構築し、マーケットリサーチ、事業アイデア創出、仮説と検証、技術検証、資金調達、事業収支と採算分析など、組織を動かすための計画が必要になってくる。予算を執行するのだから計画が必要なのはどの企業も一緒であると考えるが、そこで問題としておきたいのが、この計画背後に存在する推進環境について議論が進んでいないことだ。新規事業の内面を支えるポイントにも関わらず、計画策定の前後に以下のような内容の見直し検討や実質的なステークホルダーとのオーソライズがされておらず、ひいては計画書にも明記されないこともある。

・社内での新規事業の定義
・成功と失敗の定義(成功が前提となっていないか?)
・新規事業における経営者のメッセージング(言語化・習慣化・説明を他者に任せていないか?)
・新規事業に取り組む本質的な目的と狙い(流行り?一発逆転?経営者だけが心底に隠している本当の理由を伝える相手はいるか?)
・成否判断の方法(誰がいつするのか、もう少しやってみようの指標)
・予算が先か計画が先か顧客が先かのジレンマ
・推進チームの社内ポジション(チーム組織は経営者に近いほど良い)
・メンバーの兼任に伴う業務割合と優先度(通常業務が優先され新規事業が置き去りになる)
・決裁に関わるメンバーとルート(絶対数と協議スコープ)
・ロングタームな長過ぎる目標設定(新規事業の賞味期限。5年、10年は本当か?)
・企業、組織の文化や慣習の認識
・企画フェーズと運用フェーズでのチーム構成(外部の人材ばかりになっていないか?社内育成とノウハウが蓄積されない)
・他部門、他案件/プロジェクトとのコンクリフト解消策
・既存事業との共存や軋轢、「お手並み拝見」組への対応方法(他人の火を消す存在)
・責任者の長期アサインと離脱時の対策
・スタートリソースと維持方法(リーダクラス以外、他業務で余った人員が集まっていないか?)
・全員が常にフルアクションでモチベーションを最大化しなくても推進できる見込か否か
・経営者関与のレベルとメンターの存在
・撤退判断の方法とルールの定義(開始と同時に終わり方を考える)
・社内ベンチャーはじめ分社化(本気でかつ勝算があれば独立採算を検討する)
・既存事業と新規事業の物理的な推進場所(推進チームを放置せず組織の中に浸透させているか?)
・新規事業チームの評価方法(既存事業のルールや評価基準は当てはまらない)
・インセンティブと人事評価(チャレンジする人が出てこない)

これらの推進環境は、経営者や幹部のみが整備できるものであり、結局のところ企業内部での最大の課題は、経営者の判断と環境づくりが成否に大きく影響する。企業の規模により問題と課題そして懸案は、大きく異なるが、経営者自身がイノベーションに乗り出し新規事業立ち上げにコミットすることで、イノベーションが起きにくい保守的な文化と慣習を壊せるようになれば、強力な推進体制と環境を構築でき勝負どころでギアチェンジすることも可能になる。成功要因には、戦略の転換や試行錯誤を繰り返すことができる資金の有無は大きいが、さまざまな試みを許可できる経営者の柔軟さと度量は資質として保持した上で、意思決定をすることだけが経営者の役割ではなく、推進チームの心技を含め就業環境を整備し、メンバーの頭の中を企業内部から外部(=顧客)にシフトさせる能動的な仕掛けも必要になってくるだろう。

企業は市場戦略と採算確保に格段の努力が求められ、先行き不透明な不安感は払拭されていない状況の中、新しいビジネスの創造は、企業成長の鍵となる可能性を模索した命題であり、既知である困難に挑戦し続ける姿勢がある企業は大いに魅力があると認識されることでしょう。
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